1年前の風景

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闇を裂く道

読みました。

 

闇を裂く道 (文春文庫)

闇を裂く道 (文春文庫)

 

友人と高熱隧道の話になったときに勧められた本。なぜか吉村昭全集の中に収録されておらず、近くの本屋にもなぜかおいていないのでやむなくkindleで購入。

フィクションをうたってはいますが、丹念な調査と事実確認に基づく内容で、工事の進捗状況、各エピソードにおける登場人物の記録、農民とのやり取りや完成式典の出席者の様子などの描写は細かく調べられており、当時の高揚感や緊迫感を臨席していたかのようり描き出していました。また、完成まで16年もの歳月(その中には第一次世界大戦の好不況から二・二六事件を含む)がかかったため、時世や政局の変化の中に絶えず状況が変化していき、工事そのものの技術的難しさもさることながら政治的、世論的、地域情勢的な困難さの側面についても多くのページが割かれていて、特にトンネル工事によって水脈を絶たれてしまった村々の人の終わることない苦しみにあえぎ、怒り狂う様子は、、トンネル事故で死んでしまった者たちとはまた違う心の痛みを私に訴えてきました。

高熱隧道の黒部は過酷な現場の中で狂気敵に進められていただけに、アイコニックなわかりやすさがある一方で、闇を割く光は超長期的な大規模工事に伴う技術以外の点にも注目しているために、目を引く特徴さが薄まっていて損だなと感じます。