1年前の風景

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豊饒の海

読みました。

豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

豊饒の海 第二巻 奔馬 (ほんば) (新潮文庫)

豊饒の海 第二巻 奔馬 (ほんば) (新潮文庫)

豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)

豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)

豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

 

全4巻。流石に読み切るまで少し時間がかかりました。それ以上に読んだあとに感想をまとめるまでにかなりの時間がかかってしまいました。

4巻を通じて描かれるのは第一の主人公、松枝の輪廻転生とそれを見届ける松枝の友人でもあり第二の主人公、本多の数奇な運命です。

 

 1巻の春の雪は貴族同士の倒錯した恋愛の破滅を描いています。松枝のねじれた愛や破滅的な恋愛の感情が瑞々しく、4作の中で1番面白かったです。しかし、2、3巻と続くにつれて若き純情さの内容から卑しく醜い感情に関する内容が次第に大きく占めていき、更にかなり長く抽象的な説明や挿話が入ってきて読むのが苦痛になってきました。2巻の神風連のエピソード、3巻の仏教に関するエピソードは物語を理解する上で必要なのでしょうが、長いし、読んでる最中は読ませる意味を理解できないです。

 

個人的には1巻だけ読めば十分かなと思います。

 

ただ4巻のラストには様々な感情をいだきました。

 ラストまで読み終えて、三島由紀夫はこの4巻もの大著を記して何を伝えたかったのでしょうか。

4巻では、巻を追うごとに社会的成功を収めながらも卑しく俗になっていく本多の矮小さが殊更強調されていきます。4巻を通じて感じる虚しさ、そしてラストの展開に「人生とは空虚である」という感情を抱きました。こんなにも長い本の中で、本多の一生と松枝の輪廻を描き、やっとはじめのところに戻ってきて、空虚という回答を突きつけられて読了後は軽いショックを受けました。

三島はこの本の最後を遺稿にして自刃したとのことですが、このラストを読んだ後だと、三島は熱い思想をもって市ヶ谷に赴いたという今までのイメージから、むしろ現代が抱える問題や歳を重ねる自分に対して、どうすることもできない無力感を持って自刃したのではと思えてなりません。