1年前の風景

書いて1年経ってから公開しています

原子・原子核・原子力――わたしが講義で伝えたかったこと

読みました。


高校生向けと思われる講演会の文字おこしを再構成して作成されたとのことで語り口も柔らかく、内容も平易でわかりやすかったです。

前半は簡単な物理の復習から始まり、量子力学の黎明期の歴史の話を中心に話が進み、後半は現代の兵器としてのエネルギーとしての原子力政策に関する強い批判と警鐘という構成になっています。

私は山本義隆とは思想は異にしますが、この人の書く本は好きだし、本を読むと彼の聡明さもさることながら学問にかける熱量に圧倒されます。大学の頃全く読めなかった「熱学思想の史的展開」を昨年ついに読みきることができたことは私のささやかな自慢です。彼が歴史の流れの中で東大を中退することになってしまうことは残念でなりません。

この本も高校生向けと言いながらも、出典に示される1次資料は、適当な科学史の専門書よりも多いとおもいます。
個人的に1番感心したのはマリーキュリーがラジウムを発見できたのは夫ピエールのピエゾ素子の発見の功績が大きいという説明でした。1次資料から示される放射性物質の測定方法はへーってなりました。

後半の原子力発電所に関する批判は出典が偏り批判ありきの論評にも感じる部分もありましたが、理論から工業への転換の難しさや核廃棄物の処理に関する論評は原子力政策が目を背けてきた部分をちゃんと指摘していると感じました。そういうところは自分も工業に携わるからこそ納得できる話です。

巻末を見るともう70歳をとっくに過ぎているらしいが、今後も執筆を続けてほしいなぁ。