1年前の風景

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苦役列車

読みました。

 

苦役列車 (新潮文庫)

苦役列車 (新潮文庫)

 

 中卒日雇いの19歳が、日雇いで日々の生活を細々と暮らす中で芽生える友情とその終わり。強烈な主人公は自分がモデルなのだろうか。中学を卒業してからほとんど社会との接触を作らずただただその日を暮らす主人公の思考は短絡的で浅はかなのだけどリアリティがあり、自分とは全く違う人間、思考過程でありながらその思考や行動に共感ができた。

 

もう一作の「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」も良かった。
こちらのほうがより私小説の色が強い。自分の作品が川端康成賞の候補になった小説家の「川端康成賞が欲しい」という率直な思い、古本屋で見つけた落ちぶれた文芸評論家が残した作品を自分の今後に重ねて、今後自分が文壇で成功しないまま落ちぶれていったとしても自分は文章を書き続けるだろうと決意のようなものが混じり、ほの明るい希望のようなものが持てた。

 

どちらも主人公はほとんど救いようがない自堕落で卑屈な自意識に苛まれる小さな人間なのだけど、応援したくなる感覚になるのは自分もまたどこかに彼らと同じ部分を感じてしまうからだろうか。