1年前の風景

書いて1年経ってから公開しています

12歳の少年が書いた量子力学の教科書

4163908935

  • ISBN-10: 4860645138

 

読みました。

本当に12歳が書いたとは考えれない。

まず文章が12歳ではない。私は中学生の夏休みの宿題の納税作文のコンクールの文章を不正な方法で閲覧したことがあるが、400字の作文を論理の破綻無く作文できている生徒は数える程しかいなかった。通常、12歳の文章とはそんなものである。自分の卒業論文を論理の破綻無く作成できる大学生も何人いるだろうか。流石に専門書の論理性や専業作家の文章のうまさに比べればまだ粗はあるが、私の文章力程度は簡単に超えている。

 

 

 

理学書としての評価をしておく。本書はギリシア哲学から量子論〜前期量子論行列力学シュレディンガー方程式とその解釈、スピンを量子論の歴史に沿って記載している。レベルとしては大学入門から教養+αという内容。大学の履修内容には沿っていないのでボーアモデルからパウリ行列と広い範囲をピックアップして記載していて、流石に後半はかなり駆け足の感じはある。歴史通り波動方程式の前に行列力学に関する話が出て来ているところが意欲的だ。他の内容は大学時代に少しだけ教科書で見たことはあるが、行列力学を見ることは初めてだったので行列力学がどういうものかはこの本で初めて知った。行列力学の本当にさわりだけだけだが理念や外観をなんとなく感じることができた。

 

本人は前書きで本書を入門書と専門書の中間を目指して書いた、と記載している。100ページを超える本書は一貫してその中間書としての姿勢を貫いて書かれており、本人の目標としている中間書としての記述に成功しているのではないだろうか。

 

大学教養程度の内容を量子力学の歴史に沿って紹介していくというスタイルはそれなりに面白く読めたし、歴史通り行列力学をやって波動関数に移るというやり方はかなり意欲的だと感じた。また量子力学の現象をいかに考えるか(考えてはいけないか)ということに関する記述も好感が持てる。自分が量子力学を受け入れるのに大変な時間がかかってしまったからだろうか、もっと他の参考書にも「量子力学をどのようにしてか受け入れるべきか」という記述を増やしてもいいのではないかと常々感じていた。本書は筆者の解釈が随所に書かれているので、解釈に悩む大学生のヒントにもなるだろう。

 

 手放しで褒めてばかりなので最後に気になった点を

・ 文章全体を通じて、やや鼻につく、知識をひけらかすような文章のきらいがある(特に最初の導入など)

 ・正直、タイトルの「12歳の少年が書いた」と帯の久米宏はない方が良い。理学書として勝負できる内容なのだから、下手に変な話題作りなどせず、理学書然とした本にして欲しかった。これじゃあ一番この本を読んで欲しいはずの理系大学1、2年生が買ってくれないだろう。